日々是建築コラム 5章 デザインのこと|環創研/北條建築事務所

日々是建築コラム

2021年04月03日日々是建築コラム 5章 デザインのこと

少し実務の話からはなれて、今回は「デザイン」について多角的に考えてみたいと思います。

 

デザインという言葉は、皆さん日常的によく使いますね。

そして、デザイナーという言葉も同じくらい、よく見聞きすると思います。

 

これらの言葉の意味を少し深く考えてみることで、建築や設計に対する理解を深めることに繋がれば幸いです。

 

 

【デザインとアートの違い

 

「デザイン」とよく混同される言葉として「アート」があります。

しかしその意味は、実は全く異なります。

 

一言で言えば、「アート」はそれ単体で成立するモノであり、「デザイン」は常に人が居てはじめて成立するコトです。

 

モノと人との境界で、その接する部分の形や接し方(インターフェース)をコントロールすることを「デザイン」と呼ぶのです。

 

少し大袈裟に視点を変えてみると・・

仮に人類が滅んだとしても、アートはそれ自体が精神性をもったモノとして生き残ります。

しかし、デザインは人類が滅んで居なくなってしまえば、全く意味を成さないコトになります。

 

 

話を変えて、例えばこういう言い回し。

「この椅子はデザインは良いけど、座り心地が良くないですね。」

 

このケース、本当にこの椅子はデザインが良いのでしょうか。

・・・これはデザインが悪いということです。

 

椅子という、人が座るコトを成立させるモノのデザインは、人が座ったときにどう感じるかが最も重要です。

 

逆の発想で、、

例えばひょっとしたら、店の客回転を早めるために、わざと座り心地のよくない椅子を使うこともあるかもしれません。

 

こうなると、座り心地が悪いというコトがデザインと言えるでしょう。

 

 

 

【デザインとエンジニアリングの違い

 

例えばこういうお話・・・

2005年、グッドデザイン大賞受賞のインスリン用注射針「ナノパスニードル(愛称:ナノパス33)」を例に挙げてみましょう。

 

「痛くない注射針」、これはデザインでしょうか。

 

「痛くない」という言葉の先には、常に患者というユーザーがいます。

「針をどういう形状にすれば痛くないか?」ということが考えられているのです。

 

目的の先に常にユーザーがいるので、これはデザインと言えます。

 

つまり、デザインされたものの評価基準はユーザーであり、例え極細の注射針であったとしてもユーザーが「やっぱり痛い」と感じれば、目標を達成していないことになります。

 

 

逆に「デザインではない」ものはどのようなものでしょうか。

 

例えば「従来比の1.25倍の処理速度を目指したCPU」は、目的が「1.25倍の処理速度」なのでデザインではないと考えられます。

その先に恩恵を受けるユーザーがたくさん居ても、目的が「処理速度の向上」である限り、その仕事はデザインとは呼びません。

 

新幹線の乗り心地を快適にすることはデザインですが、スピードを速くすることはエンジニアリングということです。

 

ここで気づきますが、デザイナーとエンジニアは多くの場合、協働することが多いですね。

 

 

 

【デザインとはなにか

 

下図は、我々デザイナーが持つべき基本的な考え方です。

デザインを学ぶ大学生が、1年生のはじめに教わることでもありますね。

 

※イメージ出典・・・公益財団法人日本デザイン振興会HPより

 

 

本来『デザイン』とはイコール、設計のことです。

 

少し専門的に言うと・・

形態や意匠に限らず、目的を持った人間の行為をより良いかたちで適えるための「計画」を意味します。

モノのユーザーインターフェースをよりよいものにしていく仕事とも言えると思います。

 

例えば、「指に障害をもった方が使えるスプーン」は優れたデザインの事例です。

 

『デザイン』とは人の行動心理や身体特性を知り、生活をより豊かに幸せにするためのモノの在り方を考える科学であると、結論付けておきましょう。

 

 

 

【アフォーダンスとユニバーサルデザイン

 

余談ながら・・

デザインと密接に関わる用語に「アフォーダンス」があります。

 

デザインの分野で「アフォーダンスが良い」と言えば、それはモノが持つ形状や特性が、人のある特定の行為を自然と導き出しやすいことを意味します。

 

私には、扇風機のスイッチをうっかり足の指で押してしまって、行儀が悪いと怒られた思い出があります。

確かに行儀は悪いかもしれませんが、私は無意識に足の指で扇風機のスイッチを押していました。

これはその扇風機の操作スイッチのアフォーダンスが、足の指での操作を導き出しているのだと、私は解釈したのですが・・

 

 

このアフォーダンスの考え方が発展していくと、「ユニバーサルデザイン」につながっていきます。

 

1.どんな人でも公平に使えること

2.使う上での柔軟性があること

3.使い方が簡単で自明であること

4.必要な情報がすぐに分かること

5.簡単なミスが危険につながらないこと

6.身体への過度な負担を必要としないこと

7.利用のための十分な大きさと空間が確保されていること

 

ユニバーサルデザインの7原則を紹介しておきます。

 

デザインの力で、人の暮らしの幸せがもっともっと増えていくことを願っています。

 

 

 

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