WORKS事例
京都・御所南の旧市街地型美観地区にて,日本初のドレスブランドによる総合ブライダル事業拠点を計画した.
2020年,コロナ禍1年目にスタートした本計画は,急激に変化した時代性を大いに表している.
冠婚葬祭や儀礼式典の簡略化や縮小は, 近年の潜在的な価値観としてもともと広がりを見せていたが,コロナ禍を引き金に結婚式の在り方は根本的に変化した.
一時的な結婚式需要減から回復した後も,旧来の結婚式が基本単位80人であったものが小規模化し,25人程度の小さな結婚式が一つの在り方として定着すると予想した.
またフォト婚の需要増を見込み,ドレスショップに本格的なフォトスタジオを併設し,ドレスブランドならではの写真サービスの展開を支える動線計画を考えた.
フォト婚は京都市内の各名所も撮影舞台になるため,その基地として使いやすいことも立地選定の主要な条件であった.
敷地はいわゆる鰻の寝床と呼ばれる一般的な京町家1軒分のサイズで,間口が狭く奥行きが深い(6m弱×30m弱).
そしてドレスブランドのデザイナーであるクライアントから与えられた多くの要望の中でも,設計者として重要であると捉えたのは時代変化に応じる空間の可変性であった.
先進的なブライダルサービスを包括するドレスブランド直営の小規模結婚式場は,少なくとも日本において他に事例がないのである.
コロナ禍の早い時期におこなうポストコロナ時代を見据えた事業投資としては,なるべく包容力の大きい建築が良いと,そう考えた.
仮に十分に広い面積があるとすれば空間の可変性を高めることは簡単であるが,計画地は京町家1軒分の敷地.
さらに主要諸室に求められた用途も具体的であり,当初建築空間として可変性をどのように現出させるかは非常に高いハードルに思えた.
設計者として悩んだ末に至った解決の糸口は,ここは御所南の美観地区でありもともと町家の敷地であったということである.
物理的な構造体としては建て替わってしまうわけだが,その場所が持つアイデンティティは町家空間に依存するのではないか.
面積的な広さには厳しい制限があるにしても,自然光の導入と動線を兼ねたコアを介して各フロアレベルに視覚的な繋がりを持たせることで,将来の諸室用途の変更や入れ替えの可能性を拡げられると考えた.
設計中は,京町家が多く残るまちなみの日常の中で,いかに利用者の方々に非日常な体験をしてもらえるかを念頭にスタディを重ねた.
ファサードの3階,4階外壁をセットバックさせ,空に溶け込む質感をつくり出すためにパンチングメタルでダブルスキンを構成し,全面道路から感じるボリュームを軽減した.
前述の通り,空間構成は京町家に着想を得た部分が多く,坪庭としてのライトコート,1階は通り土間としての通路やミセノマとしてのカフェ,奥座敷としての結婚式場を配置し,空間体験としてどこか懐かしさを感じる構成を目指した.
2階はフォトスタジオとドレスショップ,3階はドレスショップとメイクアップルーム,4階はドレスブランドの本社事務所を設けた.
日影規制を考慮して最高高さを最小限とするために各室に必要な天井高さを割り当てたスキップフロアの構成が,建築内部を全体として一体感あるものにまとめている.
用途 小規模結婚式場(飲食店併用事務所)
竣工 2022年6月
施工 野口建設株式会社
写真 笹の倉舎 / 笹倉洋平